二項係数・二項定理を考える③(不等式の証明への応用)【大学入試数学】【数学ⅠA・ⅡB】

2020年11月30日

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どうも!受験コーチSHUです。

ここまで2回にわたって二項定理について考えてきました。

1回目→ 二項係数・二項定理を考える①(二項係数の性質・典型問題)【大学入試数学】【数学ⅠA・ⅡB】
2回目→ 二項係数・二項定理を考える②(多項式の計算)【大学入試数学】【数学ⅠA・ⅡB】

今までは展開における係数や、多項式、整数の割り算といった「等式」(恒等式)について扱ってきました。今回は、不等式の証明における二項定理の利用を考えていきましょう。

どのような不等式において二項定理の利用ができるのでしょうか。ポイントは「ナントカのn乗」です。

二項定理を使いたい不等式

二項定理は、基本的に「ナントカのn乗」を展開する際に利用できる定理です。これを踏まえれば、二項定理を利用したくなる場面は、不等式に「ナントカのn乗」が含まれる時です。

しかし、いつでもこれを使えばよいかというと、そうではありません。以下のような例題では、二項定理による証明も可能ですが、別の手段をとることもできます。

例題1 \( n \) を自然数とする。不等式 \( 3^n > n^2 \) を示せ。
例題2 \( h \) を実数とし、\( n \) を \( 2 \) 以上の自然数とする。このとき、不等式
$$ (1 + h)^n ≧ h^n + nh^{n – 1} + \displaystyle \frac{n(n-1)}{2} h^{n – 2}  $$
を示せ。

例題1においては、 \( 3^n = (1 + 2)^n \) が登場しますし、例題2においては \( (1 + h)^n \) が登場します。これらを二項展開し、\( (左辺) – (右辺)\) を行えば証明できます。

もっと大事なのは二項定理はあくまで手段の1つにすぎないということです。

例えば例題1では、数学的帰納法を用いた証明や、\( y = 3^x \) のグラフと \( y = x^2 \) の大小関係、すなわち\( f(x) = 3^2 – x^2 \) として\( f(x) > 0 \) がいかなる\( x ( > 0 )\) についても成立することを示せばよい、という解法を選択することもできます。
※ いかなる正の実数 \( x \) に対しても \( f(x) > 0 \) が成立すれば、いかなる正の整数に対してもこの不等式は成立します。

例題2も同様に、帰納法による解法が考えられます。

解答例は省きます(後日掲載するかもしれません)が、Googleで問題文を検索していただければ解答例はたくさん出てくるのでもし気になった方は是非自分で解いてみてください。コメントやメールなどから連絡してくださってもOKです!

やはり「ナントカのn乗」というのは、自然数が絡む話ですから帰納法とも相性がいいわけです。また、場合によっては両辺の対数を取るという解法が有効かもしれません。

二項定理はあくまで解法の1つにすぎないということを肝に銘じておいてください。

不等式や確率、整数などは複数の解法が選択できる場合が多いです(もちろん、他の分野でもそうです)から、「二項定理を利用できないか?」と考えるのも大事ではありますが、他にどのような解法が選択できるか考えることも重要になります。

不等式の証明と二項定理

今日の問題はこちらです。

例題3

  1. \( k, n \) は不等式 \( k ≦ n \) を満たす自然数とする。このとき、$$ 2^{k – 1} n (n – 1) (n – 2) \cdots \cdots (n – k + 1) ≦ n^{k} k! $$ が成り立つことを示せ。
  2. 自然数 \( n \) に対して、 \( (1 + \frac{1}{n})^n < 3 \) が成り立つことを示せ
  3. \( \frac{9}{19} < log_{10}3 < \frac{1}{2}\) が成り立つことを示せ

それでは、発想と解答例に入ります。

発想
不等式の問題では「差を取る」「各項を評価する」「有名不等式(相加・相乗やコーシー・シュワルツなど)を利用する」といった発想から解答を作っていくことが多いです。基本的には差を取ることで解決しますが、たとえば今回の問題のような場合、差を取るのはどうも大変そうです。そこで、今回の(1)と(2)では、左辺に現れる各項を評価することを考えてみましょう。

解答例
(1)
\( n (n – 1) (n – 2) \cdots (n – k + 1) ≦ n^{k-1} \) であるから、\( (左辺)≦ 2^{k-1}n^{k-1} \) である。更に、\( k! = k \cdot (k-1) \cdot \cdots \cdot 3 \cdot 2 \cdot 1 ≦ 1 \cdot 2^{k-1} \) であるから、 以上より
\begin{eqnarray}
(左辺)& ≦ & 2^{k-1}n^{k-1} \\
& ≦ & 2^{k-1}n^{k-1} \\
& ≦ &  2^{k-1}n^{k}
\end{eqnarray}

(2)
二項定理と(1)より、
\begin{eqnarray}
(1 + \frac{1}{n})^n & = & 1 + {}_n \mathrm{C} _{1} \cdot \frac{1}{n} + {}_n \mathrm{C} _{2} \cdot \frac{1}{n^2}  + \cdots +  \frac{1}{n^n}  \\
& = & 1 + 1 + \frac{n(n \, – 1)}{2! \cdot n^2} + \cdots + \frac{1}{n^n} \\
& = & 2 + \frac{1 \cdot ( 1 \, – \frac{1}{n} )}{2!} + \cdots + \frac{1}{n^n} \\
& < & 2 + \frac{1}{2!} + \frac{1}{3!} + \cdots + \frac{1}{n!} \\
& < & 2 + \frac{1}{2} + \frac{1}{2^2} + \cdots + \frac{1}{2^{n – 1}} \\
& < & 2 + 1 = 3 
\end{eqnarray}

ただし、級数 \( \displaystyle \sum_{n=1}^{∞} \frac{1}{2^n} \)が1に収束することを用いた。
(※意欲的な生徒、特に理系は解答の後ろにある補足事項を読んでください)

(3)
\( \displaystyle \frac{1}{2} = log_{10}{10^{\frac{1}{2}}} > log_{10}{9^{\frac{1}{2}}} = log_{10}{3} \)である。

(2)の不等式において両辺正であるから、両辺10を底とする対数を取って
$$ log_{10}{(1 + \frac{1}{n})^n} < log_{10}{3} \\
⇔ n \cdot log_{10}{(1 + \frac{1}{n})} < log_{10}{3} $$
を得る。

ここで、この不等式において \(n=9 \) とすると、

\begin{eqnarray}
9 \cdot log_{10}{\frac{10}{9}} & < & log_{10}{3} \\
9 \cdot log_{10}{10 \times \frac{1}{9}} & < &log_{10}{3} \\
9 \cdot (1 \, – log_{10}{9}) & < &log_{10}{3} \\
9 \, – 9 log_{10}{3^2} & < & log_{10}{3} \\
9 & < & 18 log_{10}{3} + log_{10}{3} \\
\frac{9}{19} & < & log_{10}{3} 
\end{eqnarray}

以上で
$$ \frac{9}{19} < log_{10}{3} < \frac{1}{2} $$
の成立が示された。

補足(意欲のある人向け)
(2)で登場する \( (1 + \frac{1}{n})^n \) は、極限( \( n \rightarrow \infty \) )を取ると自然対数の底(ネイピア数)\(e\) に収束します。これについてもう少し深く考えてみます。

数列 \( \{a_{n}\} \) の一般項 \( a_{n} = (1 + \frac{1}{n})^n \) を考えましょう。(2)の過程から
$$ a_{n} = 1 + 1 + \frac{1(1 – \frac{1}{n})}{2!} + \frac{1(1 – \frac{1}{n})(1- \frac{2}{n})}{3!} + \cdots + \frac{1}{n^n} $$
であり、ここで \( n \) を \( n+1 \) と置き換えると(つまり、\( a_{n+1} \) を考えると)項の数が増え、かつ各項の値も大きくなるので、数列 \( \{a_{n}\} \) は単調増加列であることが分かります。 

更に、数列 \( \{a_{n}\} \) の各項は3を超えないことが既に示されています。つまり、この数列に属する全ての数は3という1つの数よりも小さく、このようなとき、数列 \( \{a_{n} \} \) は「上に有界である」といい、3は「上界」の1つです。すなわち、上界とは数列 \( \{a_{n}\} \) に対し、\( a_{n} ≦ M \) を満たす数 \(M\) 全体のことを言います。\( \{a_{n}\} \) の上界のある数に対して、それより大きな数もまた上界ですから、考えてみるとより面白いのは「最も小さい上界は何か」という事です。

この「最も小さい上界」というのを「上限」と呼び、集合 \(S\) が上に有界であるような場合(あえて抽象的に表現しました)、必ず上限が存在します。また、上限は必ずしも集合 \(S\) に属する数である必要はないことに注意しましょう。あくまで上限とは「最小の上界」にすぎないためです。以上をまとめると、集合 \(S\) の上限が \( a \) であるとは、

上限の同値条件

 

  1. 集合 \(S\) の任意の要素 \(x\) に対し、\( x≦a \)
  2. \( b < a \) とすれば、\( b < x \) となるような或る\( x \) が集合 \(S\) の要素として存在する

という2条件が同時に成立する事です。

さて、数列 \({a_{n}}\) が単調増加で上に有界であるようなとき、数列の収束性について考えてみましょう。

先ほどの説明に基づけば、数列 \( \{a_{n}\} \) は上に有界ですから、ある上界 \(M\) が存在して、全ての \(a_{n} \) に対して \( a_{n} ≦ M \) が成立します。\( \alpha ≦ M \) なる数 \( \alpha \) が \( \{ a_{n} \} \) の上限であるとすれば、上限の同値条件から数列 \( \{a_{n}\} \) の極限が \( \alpha \) ということになります。\( a_{n} < a_{n + 1} \) と合わせれば、上に有界な単調増加数列は収束するという事が分かります。

以上より、一般項 \(a_{n}\) が \( a_n = (1 + \frac{1}{n})^n \) で与えられる数列 \( \{a_{n}\} \) は上に有界な単調増加列であるが故に収束し、その極限値を昔の数学者は\( e = 2.7182818284 \cdots \) で与えたという事になります。