リチウムイオン電池の仕組みとは?~分かりやすく・詳しく解説してみた~【ノーベル化学賞】【受験化学】

2020年12月2日

どうも!受験コーチSHUです。

今回は、リチウムイオン電池について解説していきたいと思います。リチウムイオン電池は2019年にノーベル化学賞を受賞された吉野彰さん(他海外研究者の方2名)の研究で、以前から入試でもしばしばテーマにされてきました。

この記事では、電池の基本から始まり、リチウムを電池に用いる理由、そしてリチウムイオン電池の反応や量計算について解説します。今年の入試でも出題される可能性は高いですから、きちんと読んで理解しましょう!

最後に入試問題についても扱うので、是非トライしてみてください!

注意:あくまでリチウムイオン電池の概略を理解してもらうための記事で、学問的な完全性は保証できません。

電池の基礎知識を確認

リチウムイオン電池の話の前に、電池に関する基礎知識を確認しましょう。

電池とは化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置です。もう少し細かく言えば、酸化還元反応に伴う電子の流れ(電流)を取り出して利用することを可能にする装置です。一度しか放電反応を起こせない、つまり充電不可能な電池を一次電池、充電可能な電池を二次電池と呼んでいます。

ここで、電池を考える上で重要な高校化学のキーワードを確認しましょう。

まず、電池には「負極」と「正極」がありますよね。たまに「負極はイオン化傾向の大きい金属で、正極はイオン化傾向が小さい金属」と覚えている人がいますが、これでは不十分です。電池の本質が酸化還元反のであることを考慮すれば、「負極(電子を出す方)が還元剤で、正極(電子を受け取る方)が酸化剤」と覚えるべきです。イオン化傾向の大きい金属は、電子を出しやすい、つまり還元剤として働きやすいこととイコールですから、より広い覚え方として「負極(電子を出す方)が還元剤で、正極(電子を受け取る方)が酸化剤」を採用してください。

一般的には異なる金属を電解液に浸しているような装置ですが、燃料電池など一部の電池では活物質として金属を利用しないものがありますから、そうした場合に注意しましょう。ただし、今回の記事では簡略にするため、金属を活物質として考えていきます。

さて、電池の「強さ(起電力や放電時間)」は各極で反応する物質における標準電極電位の差によって決まります。標準電極電位とは、ある単体をそのイオンが1mol/L存在する溶液につけた場合において、単体と溶液の間に生じる起電力(電位差)のことで、簡単に言えば「イオンへのなりやすさ(イオン化傾向)を定量的に表したもの」です。標準電極電位が小さい(負の値を取る)ほど、イオンが安定=陽イオンになりやすい=電子を放出しやすい、大きい(正の値を取る)ほど、単体が安定=陽イオンになりにくい=電子を放出しにくい、と思ってくれれば大丈夫です。

これを踏まえれば、標準電極電位の差が大きなものを各極に用いれば、より大きな起電力が得られることが予測されます。金属に絞って考えれば、イオン化傾向の差が大きなものを用いればより大きな起電力を得られるという事になります。このことは、記述対策などで覚えている人もいるのではないでしょうか?

このことに注目したのがリチウムイオン電池になります。この電池について詳しく見ていきましょう。

リチウムイオン電池とは?

金属を活物質に利用する場合はイオン化傾向の差(標準電極電位の差)が大きなものを選べばいい、というのがリチウムを電池に利用しよう!って発想の根拠です。

高校でも習った通り、金属のイオン化傾向はリチウムが最大で金が最小です。従って、計算上は負極にリチウム、正極に金を用いた電池が最強ということになります。

しかし、この電池では大きく4つの問題がいくつかあります。

まず1つ目。金は高価すぎることです。現在の技術で掘り出すことのできる金はさほど多くなく、電池でたくさん使えるほど安い金属ではありません(値段が高くなるのは、埋蔵量が少ない上に優れた性質を示すためです。つまり、需要と供給が一致していないということです)。

そして2つ目。金は比重が大きすぎて重いということです。金は水に対する比重が20近くあり、とてもじゃないですが電池として使える重さではありません。

更に3つ目。リチウムの反応性の高さです。リチウムはアルカリ金属の一種で、水と激しく反応し、水分があれば空気とも速やかに反応します。水と反応すると激しく発熱して発火しますから、電池が爆発するといった事故の危険性もあるわけです。

最後に4つ目。これは二次電池でないという事です。

したがって、これらの観点から上に示したような電池はダメなわけです。ですが、発想としてはいい線いってます。というのも、標準電極電位の差が大きければ起電力が大きくなることは紛れもない事実であり、そのためにはリチウムを使うのが合理的です(リチウムのほかにカリウム、ナトリウムも標準電極電位が小さいですが、これらは全てアルカリ金属で物性は近いです。それゆえ、標準電位が最小のリチウムを使うのが合理的という事です)。

リチウムを上手く使うことができれば起電力の大きい電池を作れるだろう、という事は明らかですから、これらの問題をどう解決するか、という事が重要になります。

初代リチウムイオン電池

1970年代に初めて作られたリチウムイオン電池は、負極にLi単体、正極にTiS2を用いたものです。

反応としては、

\( 正極:xLi \longrightarrow xLi^{+} + xe^{-} \)
\( 負極:TiS_{2} + xLi^{+} + xe^{-} \longrightarrow TiS_{2}Li{x} \)

となっています。ただし、\(x\) は0以上1以下の実数です。負極の右辺に登場するどうも怪しげな物質については、後で説明します。

これが史上初めて単体Liが使われた二次電池で、起電力は2.0V程度でした。ちなみに、この起電力は鉛蓄電池とほぼ同じです。圧倒的に軽量化されていることから、鉛蓄電池もある意味優れていると言えるでしょう。

これとまったく同じような仕組みで、正極にMoS2(二硫化モリブデン)を用いた電池では、起電力が2.8Vとなります。

「起電力が大きい電池ができた!しかも軽量化されてる!万歳!🙌」

と思っていたのですが、大きな問題がありました。それは、「Liの析出」です。これについて詳しく見ていきましょう。

まず、放電反応を考えます。負極において \( xLi \longrightarrow xLi^{+} + xe^{-} \) が起こり、リチウムイオンが電解液に流れ出し、電子は導線を通って二硫化チタンの方へ流れていきます。

流れ出たリチウムイオンと正極の二硫化チタンが反応し、放電反応が完結します。

さて、これを充電する時に1つの問題が生じます。今、負極はリチウムが溶け出して穴ぼこの状態で、二硫化チタンの方にリチウムイオンが残っている状態です。

充電反応では、二硫化チタンの方にあるリチウムイオンが電解液に流れ出て、リチウム単体の方にリチウムが析出していきます。ここが大きな問題です。

今、析出するリチウムは、穴ぼこに入っていくとは限らず、偏って析出していく可能性があります。

これは分かりやすくするためにあからさまに書きましたが、よく考えてみてください。普通に考えて、出ていったリチウムイオンが元の「場所」に戻っていく可能性は限りなく0に近いです(確率的に考えましょう)。従って、放電→充電→放電→充電・・・と繰り返すたびに負極のLi単体はどんどんいびつになっていき、しまいには正極と繋がってしまうことがあるのです。

すると、回路が閉じてしまい、このまま反応を進行させるとどんどん発熱し、しまいには発火したり爆発したりします。

ちなみに、正極を二硫化モリブデンとしたものは、その起電力の高さと軽量性から実際に商品化されましたが、各地で発火事故が相次いだそうです笑

二代目リチウムイオン電池

初代の電池は何かと危険で改良が必要でした。そこで、正極をTiS2からコバルト酸リチウムLi(1-x)CoO2に変えた二代目リチウムイオン電池が開発されました。

こうすることで、放電時に各極は次のような反応を示します。

\( 負極:xLi \longrightarrow xLI{+} + xe^{-} \)
\( 正極:LI_{(1-x)}CoO_2 + xLi^{+} + xe^{-} \longrightarrow LiCoO_2 \)

この電池の起電力は4Vと、かなりパワーが大きくなったことが分かります。そして、肝となるのは「正極にリチウムが含まれること」です。

初代では、放電によって電解液にLiイオンが正極に溜まり、充電時に正極から負極へと戻る際にLi単体が正極方向に析出する場合があることが問題でした。すなわち、反応開始時は正極においてLiの席は「空席」の状態で、放電が進行すると正極におけるLiの席が「満席」の状態になります。

二代目にでは、最初から正極におけるLiの席は満席状態からスタートします。実は正極はコバルト酸の層になっており、リチウムはこの層に挟まれ、格納されている状態です(初代もこの構造で、二硫化チタン・二硫化モリブデンの層にリチウムが格納されています)。

この電池においては、最初に充電することで満席状態である正極のLiイオン全て負極側に移動させます。このイオンの移動については、上に示した放電反応の逆を考えてください。正極からはリチウムイオンが流れ出ることが分かります。

こうすることで、放電反応でリチウムが移動しても、負極の単体リチウムは「穴ぼこ」の状態にはなりません。

そのため、初代で生じる「回路が閉じて発火してしまう」という問題を回避することができるのです。

三代目リチウムイオン電池

三代目では、負極がグラファイトになっています。

二代目において電流として寄与しているリチウムイオンはあらかじめコバルト酸の層に格納されたものでしたね。とすれば、負極に単体リチウムを使う必要はもはやなく、グラファイトの層にリチウムを移動させればよいのです。一応確認しておきますが、グラファイトというのは、各層はファンデルワールス力で繋がっており、層内の炭素原子は共有結合で繋がったものです。

「いやいや炭素なんか使ったら標準電極電位下がって起電力さがるじゃん!」

ってツッコミが聞こえてきそうですが安心してください。

グラファイトの層にリチウムイオンが格納された「Li-GIC」という物質はLiの単体と同程度の標準電極電位を示し、リチウム単体の時と同じくらいの起電力を得つつも、安全な電極活物質になるのです。

Cも合わせた放電の反応式はこちらになります。

\( 負極:Li_{x}C \longrightarrow C + xLi^{+} + xe^{-} \)
\( 正極:Li_{(1-x)}CoO_2 + xe^{-} + xLi^{+} \longrightarrow LiCoO_2 \)

こうして安全で軽くて起電力の大きなリチウムイオン電池が完成したという事になります。

とはいえ、まだまだ課題があります。例えば、コバルトは希少性の高い金属で価格が不安定という問題があります。また、リチウムも同様に希少金属です。こうした問題を解決するため、現在カリウムイオン電池なども開発されつつあるそうです。

それでは、最後にリチウムイオン電池にまつわる入試問題を紹介します。

リチウムイオン電池がテーマの入試問題

2014年名古屋大学の問題を紹介します。

 

2014年名古屋大学

リチウムイオン電池に関する次の文章を読んで、問1~3に答えよ。

リチウムイオン電池は、携帯電話やデジタルカメラなどに使われる二次電池で、正極材料には \(LiCoO_2 \)、負極材料に黒鉛、電解質としてリチウム塩を含む溶液が用いられている。\(LiCoO_2 \) の結晶では、塩化ナトリウム型結晶構造の塩化物イオン \(Cl^{-} \) の位置に酸化物イオン \( O^{2-} \) が配置し、ナトリウムイオン \( Na^{+} \) の位置にリチウムイオン \( Li^{+} \) あるいはコバルト(Ⅲ)イオン \(Co^{3+} \) が配置する。塩化ナトリウムの結晶では、イオン間に働く( ア )力により \(Na^{+}\) と \(CL^{-} \) が引き合っている。単位格子中の一つの \(Na^{+}\) に着目すると、最も近い距離にある \(Cl^{-} \) は( イ )個あり、また、着目したに最も近い距離にある \(Na^{+}\) は( ウ )個ある。

リチウムイオン電池の充電時には、正極材料で以下の反応が起こる。 $$ LiCoO_2 \longrightarrow Li_{1-x}CoO_2 + xLi + xe^{-} (ただし、0<x<1)$$

\(LiCoO_2 \) から \(Li^{+}\) が引き抜かれるとともに、度量の\( Co^{3+} \) がコバルト(Ⅳ)イオン \(Co^{4+} \) に酸化される。放電時には逆の変化が起こる。この充電と放電の際結晶格子が伸縮するため、この伸縮がリチウムイオン電池の劣化の原因の一つとなる。負極材料である黒鉛は、炭素原子が強い結合で繋がった網目状の平面構造を作り、この平面同士が( エ )力で弱く結合した層状の構造をもつ。充電時には( エ )力で弱く結合した層間に \(Li^{+} \) が侵入し、以下の反応が起こる。

$$ C + xLi^{+} + xe^{-} \longrightarrow Li_xC $$

ただし、ここで \(C \) は黒鉛を表している。充放電にともない \(Li^{+} \) が両極間を移動するため、リチウムイオン電池はシャトルコック型電池ともよばれる。

 

問1 文中の空欄( ア )~( エ )にあてはまる最も適切な語句または数値を示せ。

 

問2 \( LiCoO_2 \) 結晶において、 \(Co^{3+} \) あるいは \(Li^{+} \) の中心と、これに最も近い \(O^{2-} \) の中心との 距離はどちらも \(d\) nmであるとして、\( LiCoO_2 \) の密度[g/cm3]を与える式を記せ。ただし、この結晶では \(CO^{3+}\) と \(Li^{+}\) が均一に配置すると仮定せよ。また、\( LiCoO_2 \) の式量をM、アボガドロ定数をNAとせよ。

 

問3 リチウムイオン電池を充電後に使用したところ、使用中に流れた電気量は \(10 \times 10^5\) Cであった。このとき負極の質量は何g変化したか。増加した場合は+、減少した場合は―の符号をつけ、有効数字2桁で答えよ。(Liの原子量=6.9、ファラデー定数=\(9.65 \times 10^4 \)C/mol)

 

解答
問1   省略
問2   \( \displaystyle \frac{M\times10^{21}}{4N_Ad^3} \)
問3   \( -1.4 \times 10 \)g